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晴れ 時々 嵐 (3)
(3)

その日は、さとる君と一緒にボクシングの試合を見に行くことになっていた。
私が具志堅用高と矢吹ジョーのファンなんだと言うと、
「意外だなぁ。オレ、今ジムに通ってんだよ。券を手に入れるから一緒に見に行こう。」と誘ってくれたからだ。

具志堅用高がJr.フライ級のチャンピオンになり、7回目の防衛戦だった。今日は7日、7000円の席で、私の席番号は507番だった。

「ワクワクするね。」

508番の席に座るさとる君に声をかける。
その声は周りの歓声にかき消されてしまった。客席を見渡すと物凄い面々だ。角刈りの人、スキンヘッドの人、お姐さん達はみんなケバい。さとる君にしたってアフロヘアにトレンチコート、ワインレッドのマフラーなんかしちゃっているから、どう見ても高校生に見えるのはこの客席中私一人だ。

でも良かった。さとる君がいなければ、絶対こんなところには来れなかった。
スポーツなんて大嫌いだった私が、なぜ具志堅用高のファンになったかというと、さとる君のボクシング好きを知ったからだ。

「打たれても、また立ち上がるんだ。自分だけの精神力で。誰も助けてくれない。そんなことは全然怖くない。けれど、自分がもうダメだと思ってしまったら、そこでおしまいなんだ。」

いつだったか、さとる君が部室で他の男の子達に熱く語っていたのを聞いてしまった私。本当はボクシング部に入りたかったのに、ウチの学校には部活がないから、仕方なく剣道を選んだと言っていた。なるほど、一人で闘うという点で剣道もボクシングに似ているよね。

テレビで試合を見るようになって、さとる君が言っていた『自分だけの精神力』の意味がわかった。そしてその良さも。だから私は誰も頼りにしない、具志堅用高の瞳が大好きになった。


試合が始まった。
いつも具志堅の試合しか見ていなかったので、大きな人たちの試合はシャープさがなく、もったりした感じに思えた。打たれると会場中にボコッと言う鈍い音がして、お腹の底に響いた。大きな人たちは、一度倒れると、もう立ち上がらなかった。

具志堅の試合は違った。
グローブが相手の顔面に当たると、パシィーンと甲高い音がするのだ。そしてパンチが当たって倒れても、双方ともすぐに立ち上がった。

「やっぱり、これがJr.フライ級のいいところなんだよな。オレ、どんなに練習しても減量しても、このシャープさは出せねぇよ。」

さとる君が残念そうに呟く。

「うん。さとる君、でかすぎ・・・・。」

私が言うと、目深にかぶった緑色の手編みの帽子を取り上げられた。さとる君はそれをちょこんと自分の頭の上に乗せて、そのまま観戦を続けた。

具志堅用高はその日、KO勝ちした。7ラウンド目のことだった。


対戦相手は悔しそうな苦笑いをして具志堅に握手を求めた。目の上が腫れてへちゃむくれな顔になった具志堅がそれに応じた。相手と闘ったのではない。自分と闘ったのだ。と、そう思った。



会場を出た人たちは、まだそれぞれの脳裏に興奮が焼き付いていて、なんだか目がギラギラとしていた。後ろを振り返って体育館を見てみると、湯気が立っていたように思えたほどだ。私にしてもさとる君にしても例外ではなく、駅までのフットワークが軽い。いつもはダラダラとベタベタとくっついて歩く二人なのに、お互いがお互いに寄りかかって歩くような二人なのに。

さとる君は私を家の前まで送ると、

「んじゃね!」

と言って、一人、シャドウボクシングなんかしながら走って帰っていった。

その晩遅く、晴美から電話があった。

「あんた、あたしのあげた帽子かぶって、ボクシング見てた。」
「なんで知ってんの? あ、さとる君に聞いたんでしょ?」
「テレビに映ってた。」

な〜んだ。晴美も中継見るくらいなら誘えば良かった。晴美も一緒ならもっと楽しかったのに。

今度近くで試合をやる時は一緒に見に行こうね、と約束したが、それは叶わなかった。1981年のチャンピオン具志堅の最後の試合を私は一人でテレビの中継で見て泣いた。
| 作ってみたお話 | 17:38 | comments(0) |
晴れ 時々 嵐 (2)
(2)

夏が来た。

暑いのは嫌いだけれど、私は夏の朝の日ざしが好きだ。玄関を開けたとたん、光と風が猛烈な勢いで私に覆いかぶさってくる。そして、さぁ、行こう、と言わんばかりに私の体を包み込んで家から引きずり出してくれるからだ。

その日、晴美と私はクラスの女の子達と海に行った。総勢12名。
女の子だけのきらびやかな集団だ。

「あぢー。ゆでダコになっちゃいそう。」
晴美と私はパラソルの下にマットをしいて、肌を焼く。二人とも色が白いからすぐ真っ赤になってしまう。「真っ黒肌になる!オイル」なんぞを二人して背中に塗りたくって紫外線と戯れていた。

他の女の子達は、散り散りバラバラになっていた。みんなそれぞれがナンパされて優雅な一時を過ごしているのだ。

「やだ、腹が出てる。」
「なんか、髪の毛薄い。」
「声が気持ち悪い。」
「お金持ってなさそう。」

晴美と私は代わる代わる、声をかけてくる男の子達にいちいちごもっともな批評をする。他の子達だって一応は選り好みしていた。でも、まあまあの線で妥協していた口である。けれど私と晴美だけは妥協を許さなかった。だから私たちだけこうして残っているというわけだ。

だいたい、私はこんなところで、へらへら笑いながら声をかけてくる男の子達の魂胆が気に入らない。出会ったばかりの男女が、こんなところで中身のない会話をして、感性が触れ合うわけがない。海岸や飲み屋は周りのざわめきや音楽がうるさくてロクな話ができないからだ。いい天気の一日を変な男の子と過ごして、失敗したなぁと後悔するに決まっている。それよりも海や空の色を堪能していたほうがよっぽどいい。

晴美は何にも言わないし、私もそんな話はしない。だけどなぜかこういうときは二人だけが残るということになっていた。

「コーラ買ってきて。」
晴美に言われて、私はいそいそと売店へ走る。こういう姿を見て、他の女の子達は、「晴美にこき使われてて、可愛そう。」と同情する。けれどそれは間違いだ。私は今ちょうどコーラが欲しいと思っていたし、何より晴美のために動くのが好きなのだ。なぜかは分からない。ただ、他の子に対する気持ちとは明らかに違う。



「ねぇ、おトイレ行くけど、一緒に行かな〜い?」
学校の休み時間、私は女の子達から誘われるのが、とても苦手だった。
それなのに私は、
「う〜ん、どうしようかなぁ。」と取りあえず、煮え切らない態度で対応してしまうのだ。『せっかく誘ってくれたんだから』などと考えて、いい子ちゃんの対応を取ろうとしてしまう。

晴美ならそういう時、「行く」「行かない」だけをはっきり言う。私は晴美のそういう感覚をとてもかっこいいと思っている。

だから例えば、他の女の子なら、こういう時、
「ねえ、ノドが渇いたから、コーラ飲みたくな〜い? 買ってきてくれる?」と言うだろう。私はそれに応じるのに、またまた気を遣ってしまうことになる。

気を遣う前に体が動いてしまう相手。私にとってそれは、晴美と、死んでしまった猫のロック以外誰もいない。


コーラを飲み終わって、晴美が言った。
「銭湯寄って帰ろう。海岸通りの向こうにあったでしょ。」

みんなには、置き手紙をして、そのまま帰り支度を整えた。銭湯まではすぐなので、二人して水着にTシャツを引っ掛けてぶらぶらと歩き出す。

晴美はおニューの紺のビキニ。私のは赤の水玉模様でスカート付き。小さくて太めで子どもっぽい私は、晴美の引き立て役だ。でも、姿勢が良くて、スタイル抜群の晴美と一緒に歩いているとそんなことは忘れてしまう。銭湯までの道すがら、男の子が声をかけてきた。この子はもしかして、今日一番の男の子かも知れない。

「よ、いいじゃん。どこ行くの?」
「帰るんだよ。」

いつもながら、お見事なほどそっけない晴美の返事。


銭湯で、二人は水着の跡を確かめ合った。

「よし、これだけ黒くなればいいね。」
「もう、クラゲも出てきたし、今年の海は終わりだね。」

お湯にはいると、背中が飛び上がるほど熱かった。ワンピースの私はよかったが、晴美の柔らかくて白いお腹は今日一日だけでは黒くならず、赤剥けの状態で痛々しいほどだった。けれど晴美は弱音は吐かない。痛さを何かで紛らわせようとしている表情は、ありありだ。

どうするつもりかと思っていると、私の胸をいきなりワシッとつかんで、

「・・・なにしろ、あんたのおっぱいの形は、いいよ。」


晴美は時々、やることがオヤジっぽかった。そして意地悪だ。こういう時は、返す言葉がない。


お風呂から上がって、
「これ持って。」と言うので、晴美の荷物を両手で持つと、晴美は隣の肉屋さんに走って行った。揚げたてのコロッケを買ってきて、上手に二つに割ると、荷物を抱えた私の口にくわえさせてくれた。

晴美との、長い長い夏休み。あの時あんなに黒くなったのに、今はもう生っ白くなってしまった。おまけに日焼けの跡がそばかすになり、ついにはシミになって来てしまった。
| 作ってみたお話 | 15:34 | comments(0) |